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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)971号 判決 1983年9月05日

主文

被告らは原告に対し、連帯して、金二〇五万二八九六円及びこれに対する昭和五二年二月一九日から完済まで年一八・二五パーセントの割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨

二  被告ら

1  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告株式会社音建工業(以下、被告会社という)は株式会社大阪銀行(堀江支店扱い、以下、大阪銀行という)から、昭和五〇年九月一八日金三〇〇万円を、利率年一〇・七パーセント、同年一〇月から同五三年三月まで毎月一五日限り各一〇万円宛分割弁済、右分割弁済を一回でも遅滞したときは当然に期限の利益を失い直ちに債務を弁済する約定で借受けた。

2  原告は被告会社の委託にもとづき、右銀行に対し、被告会社の右銀行に対する債務について信用保証したが、右委託に際し、被告会社は原告に対し、原告が右保証債務を履行した場合、その代位弁済金額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から完済まで年一八・二五パーセントの割合による損害金を直ちに支払う旨約し、被告松下泰久は原告に対し、被告会社の右債務につき連帯保証した。

3  そうでないとしても、被告松下は被告会社の代表取締役としての業務、権限並びに被告会社のためにする被告松下本人の保証に関し、高登直吉、出口一夫の両名に包括的に委任しており、右各契約はいずれも右両名が代理人としてこれをなした。

4  被告会社は、大阪銀行に対する前記借入金債務の弁済を怠り、期限の利益を喪失した。このため原告は同銀行に対し、前記保証委託契約にもとづき昭和五二年二月一八日残元金二〇五万二八九六円を代位弁済した。

5  よつて、原告は被告らに対し、右代位弁済金二〇五万二八九六円及びこれに対する代位弁済日の翌日である昭和五二年二月一九日から完済まで年一八・二五パーセントの割合による約定遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因事実はいずれも知らない。

すなわち、被告松下は、昭和四九年一一月被告会社の当時の代表取締役高登直吉の強い要請を断り切れず同人に代つて被告会社の代表取締役に就任したが、右は、高登が別途経営し被告会社の親会社にあたる株式会社高登の経営危機に伴い、被告会社の連鎖倒産を防止する目的でなされた措置であつて、被告会社の経営はその後も高登及び取締役出口一夫の両名によつて行なわれ、被告松下は形式上の代表者にすぎず、会社印、代表者印の所在も知らず、原告主張の借入金について何も知らされていなかつた。

三  被告らの抗弁

1  主たる債務の時効消滅

(一) 被告会社の大阪銀行に対する前記借入金債務は、被告会社が昭和五一年六月一五日分割金の支払を遅滞したこと、あるいは同年七月三日手形交換所の取引停止処分を受けたことにより、同年六月一五日か、若しくは同年七月四日に原告主張の約定により期限の利益を喪失し、残債務の全額について履行期が到来したから、右各日から五年後である昭和五六年六月一五日か、若しくは同年七月三日の経過により、商事債権の消滅時効が完成しているので、被告らは右時効を援用する。

(二) 従つて、代位により原告に移転された大阪銀行の有していた債権は、時効により消滅したから、原告には被告らに対して請求する何らの権利もない。

2  求償権の時効消滅

(一) 原告と被告会社との間の前記保証委託契約の第四条には、被告会社又は保証人に手形交換所の取引停止処分等の事由が生じたときは、原告において代位弁済前に求償できる旨の定めがあり、これによれば原告は被告会社に対し、前記手形交換所の取引停止処分の日の翌日である昭和五一年七月四日以降右求償権を行使しうることになるから、右求償権は右同日から五年後である同五六年七月四日の経過をもつて商事債権の消滅時効の完成によつて消滅している。被告らは、本訴において右時効を援用する。

(二) なる程、保証人の求償権なるものは、保証人が代位弁済をなした時に成立するものであることは民法第四五九条一項でも明らかである。

しかしながら他方、民法第四六〇条本文では、一号乃至三号のような事実が発生した場合(但し、本件の場合には、取引停止処分がなされ、その結果期限の利益を失ない残債務につき履行期が到来したという形で二号の事実が発生している)、本来ならば保証人が代位弁済をなした時に成立する求償権を、制約した形ではあるが右各事実発生の時に成立させるということが規定されているのである。

即ち、本来代位弁済があつた時に成立するという求償権を、前記各事実発生の折りには、この代位弁済があつた時なる要件をはずし、かかる弁済なくとも、求償権を成立せしめるという旨の規定なのである。

従つて、民法第四五九条一項でいう「求償権」と民法第四六〇条本文にいう「求償権」とは、全く同一の権利であり債権なのであり、民法第四六〇条本文では、前条の第四五九条一項の求償権を「予メ」成立せしめ、そしてこれを行使することを認めているだけに過ぎず、ここで第四五九条一項の求償権とは、性質等を異にする別個の「事前求償権」なる権利や債権を、改めて創設的に認めたものではない。

四  被告松下泰久の坑弁

被告会社と原告との前記保証委託契約にあつては、被告松下の外に橋本利夫も連帯保証をしているから、被告松下には民法四五六条に定める共同保証人の分別の利益がある。

しかも、被告松下はそもそも右連帯保証をした覚えもないのであるから、同人に保証人としての責任があるとしても民法四六二条にいう委託を受けない保証人という地位以上のものではなく、従つて、同被告に対する関係では、そもそも利息、損害金の請求はなしえないことになり、しかも共同保証人間の分別によりその二分の一について責任を負うにすぎないこととなる。

五  被告らの抗弁に対する反論

1  主たる債務の時効消滅について

被告会社の大阪銀行に対する前記借入金債務は、原告がした代位弁済によつて同銀行との関係で消滅し、原告が取得した求償権を担保するため同銀行の有する債権が原告に移転することになるが、右債権は右求償権と離れて消滅時効にかかることはない。

2  求償権の時効消滅について

(一) 原告は被告らに対し、大阪銀行に対する代位弁済にもとづいて原告が取得した求償債権及びこれに関する連帯保証債務の履行を求めているもので、本訴は事前求償権にもとづく請求ではない。

事前求償権と事後の求償権とは、発生の要件事実はもちろん、法的性格も前者が弁済費用の前払請求権、後者が弁済費用償還請求権と相違している。

(二) 原告の被告会社に対する事前求償権は、被告ら主張の事由の外に求償権の保全に支障が生じるか若しくはそのおそれのあるときに始めてなしうるものであるところ、大阪銀行は原告との間の約定により、原告が代位弁済をするまでの間債権の回収に努力することが義務づけられ、被告会社が期限の利益を喪失した場合でも、そのことから直ちに原告に対する請求をなしえないこととされており、同銀行が債権回収に努力しており、求償権の保全に支障を生ずるような事情の見当らない本件では、事前求償の要件がなく、原告としてこれをなしえなかつたものである。

3  被告松下の抗弁について

争う。

第三  証拠(省略)

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